資金管理
投資苑 − 心理・戦略・資金管理
著者は、ニューヨーク在住、旧ソ連からの亡命精神科医兼トレーダーで、アメリカでは息の長いロングセラーを続けている、と聞けば、500ページ近い厚さにもかかわらず、思わず手にとってみたくなるのではないだろうか。 内容は、決してその期待を裏切らない。特にイントロダクションから2章までの、心理学のアプローチを提供した切り口で、トレーダーが犯しやすい失敗をまるで腑分けするかのごとく分析していくくだりは、どのレベルの投資家にも「必読の書」といえるかもしれない。 著者は、投資家にとって必要なものは「規律」であり、もう1つの職業である精神科医としての経験から、「アルコール中毒症患者」と「一皮むけることのできない投資家」の共通点をえぐりだす。「あなたのトレーダーとしての成功は、自分の感情をいかにしてコントロールするかにかかっています」というのである。 本書を特徴づけるもう1つのポイントは、「テクニカル分析」の手法について、十分な網羅性を保ちながら、コンパクトでかつ平易にまとめられていることだ。各項目に関する索引、参考文献も押さえられており、ここが「投資苑」なるゆえんだろうか。 ただ難をいえば、対象となる読者像がやや浮かびにくい。たとえば著者は、投資家のリスク管理上、当然のように「ストップロスオーダー(逆指値)」の設定が必要である、としているが、日本の株式市場ではつい最近になってこの形の注文形態が可能になったということもあり、金融機関で売買を仕事とする人以外の一般的な投資家にとっては、やや違和感のあるところかもしれない。(杉 良介)