ジャック・D. シュワッガー
新マーケットの魔術師−米トップトレーダーたちが語る成功の秘密 (ウィザード・ブックシリーズ)
テーマの割にはスンナリ読める本だ。帯にもあるとおり「投資を極めた達人たちの珠玉のインタビュー集」なのだが、投資を抜きにしても楽しめる。著者の卓越した対話技術の賜物というべきなのか、投資のみならず人生に対する達人たちの「ポジション」(投資対象と投資額を示すこの言葉が、本書には頻繁に登場する)がかいま見えるからだ。 自身も長年、投資の世界に身を置いてきた著者は、彼らのバックグラウンドや日常生活にも時折紙幅を費やす。たとえば、ベトナム戦争に従軍した当時の体験談がひとしきり続いたりする。達人たちの素顔はそれだけでも興味深いが、本筋とは無関係に見えるそれらが、実は彼らの投資哲学を根本的なところで支えていることに気づかされる仕組みだ。なかなかにドラマチックで、質の高いインタビューノンフィクションといえるだろう。 もちろん実利的な読み方も可能で、投資技術の向上を目指すその道のプロや一般投資家にも大いなる示唆を与えるはず。スーパートレーダーとの対話の最後に、著者がそのパートの教訓を総括してくれているのでエッセンスがわかりやすい。おまけに最後は彼らの発言から抽出した42カ条からなる「金言集」までセットされている。専門用語の解説ページもあるなど、ずいぶん親切な構成だ。 とはいえ、これを読めば大儲けできるかといえば、答えはおそらくノー。17人の達人の具体的な投資手法は、ことごとく違う。彼らに共通する「原則」を読み取ることは可能だが(それを試みたのがくだんの「金言集」)、そうなるとほとんど人生訓の世界になってしまい、日々の投資に即役立てるというわけにはいかない。それほどまでに投資の世界は奥が深いのであり、なればこそ努力なくして成功はあり得ないのである、と個人的には結論を出すことにした。 もっとも、すでにそれなりのキャリアを積んだ達人予備軍なら、読後にわかに「解脱」したりするのかもしれないが…。(手代木 建)